断られた穴から始まりました
4つの章で、技術がどう増えてきたかをたどります。
当社の加工の幅は、はじめから今の形だったわけではありません。4つの加工と複合加工は、お客様の相談に一つずつ答えた結果です。ここでは、その過程を4つの章にまとめました。
CHAPTER 01
一本の電話から
「この穴、どこにも断られたんです」

2003年の春、一本の電話が入りました。分析機器のメーカーから、φ0.05mmの穴を斜めにあけてほしいという相談でした。当時の当社に、その加工の実績はありませんでした。
断ることもできました。ただ、相談してきた技術者の話を聞くうちに、その穴が装置の性能そのものを決めることが分かってきました。流量のばらつきが、測定値の精度に直結する。だから穴の内壁の状態まで指定されていたのです。
受けることにしました。加工の見通しが立ったからではありません。狙いが分かったからです。
最初の1か月は、穴があくところまでも行きませんでした。電極が折れる、穴が曲がる、入口がダレる。試験片は100枚を超えました。
転機は、加工液の温度でした。室温に任せていた加工液を、一定の温度に保つようにしたところ、曲がりが半分以下になりました。狙いを決めていたから、どこを疑えばいいかが分かったのだと思います。
納品したのは、相談から5か月後でした。以来、この分野の相談が続くようになりました。
| 最小穴径 | φ0.05mm |
|---|---|
| 試験片の枚数 | 100枚超 |
| 所要 | 相談から5か月 |
CHAPTER 02
深さという壁
深穴は、まっすぐ進まない

次に来たのは、深さの相談でした。φ6.00mmで深さ500mmを超える穴。油圧部品の内部通路です。
ガンドリル加工そのものは以前から行っていました。ただ、深くなるほど工具は逃げます。100mmで0.1mm曲がれば、500mmでは使えません。
曲がりの原因を工具のせいにしていた間は、改善しませんでした。測ってみると、加工前の素材の反りと、芯出しの精度が支配的でした。
芯出し治具を作り直し、下穴と面取りの工程を追加しました。冷却油の圧力は、深さに応じて段階的に変える手順に改めました。
結果として、深さ100mmあたり0.05mm以下の曲がりで通せるようになりました。いまは520mmまでお受けしています。
深穴とホーニングを続けて社内で行える体制も、このときに作りました。
工程を分けずに1社で持つと、原因の切り分けが早くなります。これは設備の話ではなく、判断の話です。
CHAPTER 03
量産という別の仕事
1個できることと、1000個続けることは違う

試作で通った条件が、量産でそのまま使えるとは限りません。工具の摩耗、加工液の劣化、季節による寸法の動き。1個では見えないものが、1000個では出てきます。
最初の量産案件では、300個目から穴径が狙いの上限に寄り始めました。工具の摩耗でした。
摩耗は避けられません。避けられないものは、記録して予測するしかない。そう考えて、工具ごとの加工数と穴径の推移を残すようにしました。
いまは、工具の交換を「何個加工したら」で決めています。勘ではなく数字で決められるようになったので、担当が変わっても結果が変わりません。
測定室の温度管理も、この時期に入れました。夏と冬で0.005mmの差が出ることが分かったからです。
量産は、同じものを作り続ける仕事ではありません。同じ結果を出し続ける仕組みを作る仕事です。
加工条件の記録は、いまも材質と形状ごとに増え続けています。
CHAPTER 04
これからの穴
相談される会社であり続けるために

半導体、医療機器、航空宇宙。分野は変わっても、相談の入口は同じです。「この形、できますか」。
できるかどうかは、図面だけでは決まりません。どの寸法が機能に効くのか、どこは緩められるのか。そこを一緒に決められると、できる範囲が広がります。
私たちが増やしてきたのは、機械の台数よりも、判断の材料です。55年ぶんの加工条件と、失敗の記録。
若い加工者にも、条件の出し方と、疑う順番を伝えています。技術は人に残るものなので、記録と人の両方が必要です。
次の相談が、いまの技術では届かない内容であってほしいと思っています。届かないところに、次の技術があります。
まずはご相談ください。図面が固まる前の、形の話からお受けします。



